バターの香りと記憶の断片
古時計の刻む音が、静かな部屋に響き渡る。窓の外には、冬の光が差し込み、部屋全体を薄らと照らしている。テーブルの上には、厚切りトーストと、小さな壺に入った自家製バターが置かれている。 このバターは、祖母の手作りだ。濃厚なミルクの香りが部屋中に広がり、子供の頃の記憶が蘇ってくる。夏の朝、まだ眠そうな目をこすりながら、祖母の手作りのパンに、このバターをたっぷり塗って食べた。焼きたてのパンの温かさと、バターの冷たさのハーモニーが、夏の朝を特別な時間に彩っていた。 しかし、近年、バターは健康に悪いという話をよく耳にするようになった。特に、飽和脂肪酸が多いことが問題視されている。心臓病や動脈硬化のリスクを高める可能性があるというのだ。祖母の手作りのバターを食べる度に、罪悪感に苛まれるようになった。 そんなある日、私は古いレシピ帳を見つけた。それは、祖母が若い頃に書き綴ったものだった。そこには、バターを使っ…