R&Bの生
泥と祈り はじめに、鼓動があった。 言葉よりも先に、土を踏みしめる足音が、 あるいは綿花畑に落ちる汗の滴りが、 不規則なビートを刻んでいた。 R&Bの生は、日曜日の朝と土曜日の夜の間に生まれる。 きれいにプレスされたシャツの襟と、 泥にまみれた作業靴の隙間に。 かつて神へと捧げられた、喉を引き裂くようなシャウトは、 教会の重い…
ボサノバの夢
潮騒の導き 夜が静かに海岸に降りてくる。アスファルトの熱が冷め、代わりに肌を撫でる潮風が、遠いブラジルの砂浜の記憶を運んでくる。これは、ただの夜ではない。これは、東京の喧騒の中に仕掛けられた、薄い、しかし確かなリオの夢だ。目蓋を閉じれば、聞こえる。耳をくすぐる囁き、それは潮の満ち引きのリズム、波が砕けるたびにサウダージ…
砂漠の薔薇と幻影のティータイム
窓辺の沈黙 彼女は窓辺に立つ。都市のざわめきは、磨りガラスの向こうで遠い海のこだま。指先が触れるのは、いつも同じ冷たさのガラス。その冷たさこそが、外界と彼女の世界を隔てる、確かな境界線だ。 ここは、世界の影の図書館。 壁一面の本棚には、読まれたことのない物語と、彼女自身が紡いだ無数の「もしも」が収蔵されている。中身は、過去…
ボヘミアンおばさんの自由
風をまとう 彼女の朝は、規則という名の鎖から解き放たれるところから始まる。 目覚まし時計は、とうの昔に電池を抜いた。 時間の支配から逃れたい。 彼女の人生には、もう義務という文字は薄れて久しい。 太陽が、窓のレース越しに優しい光を投げかける。 その光に導かれるまま、ゆっくりと体を起こす。 今日もまた、約束のない一日。 何をするか、ど…
シースルーおばさんの散歩
アスファルトが溶けそうな夏の夕暮れ、 茜色の光がビルの谷間を染めてゆく。 四丁目の角を曲がるその人の姿は、 いつも通り、夕方の風を纏っている。 薄いラベンダー色のシースルーブラウス、 透けて見える肌の白さが幻想的だ。 繊細なレースのブラジャーが覗き、 その影がゆらゆらと、揺れるたびに誘う。 タイトな白いパンツは足首で切れ、 軽やかなサ…
グラマラスおばさんの冗談
真紅のルージュが笑いの輪を描く テーブルを叩く手にはエメラルドの指輪 グラスを傾け、琥珀色のブランデー 過去の男たちの名が、甘い冗談になる 真珠のネックレスが胸元で揺れる ベルベットのドレス、深紅の花を添えて 昔の恋を語るその声は少しだけハスキー それはまるで、熟成されたワインのよう 「あの人はね、月の光の下でだけ強かったの」 そう言…
